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SaaS市場規模推移・クラウド需要拡大の影響

  1. SaaSとは何か:市場拡大の土台にある“利用モデルの転換”

SaaS(Software-as-a-Service)は、ソフトウェアをインターネット経由で提供し、ユーザーはサブスクリプション等で利用する形態です。従来のオンプレミス型ソフトウェアでは、サーバー購入、環境構築、パッチ適用、バージョンアップ、セキュリティ対応などを企業が抱え込む必要がありました。一方SaaSでは、提供事業者が運用を担い、利用者は「使うこと」に集中できます。

この違いは、単なるコスト構造の差ではありません。SaaSは、導入・改善・拡張のサイクルを短縮し、組織の意思決定と実行を速くします。たとえば、営業部門がCRMを短期間で導入し、マーケティングと連携して顧客データを統合し、施策の改善を回す――といった動きが、以前より現実的になりました。つまりSaaSは、ITの“所有”ではなく“価値の連続提供”へと企業行動を変える基盤なのです。

  1. 市場規模と成長見通し:2034年に向けた拡大シナリオ

SaaS市場は今後も高い成長が見込まれています。示されている見通しでは、世界のSaaS市場規模は2025年に3,156億8,000万米ドル2026年に3,755億7,000万米ドル、そして2034年には1兆4,824億4,000万米ドルに達し、**年平均成長率(CAGR)18.7%**で拡大すると予測されています。また、北米は2025年時点で46.9%のシェアを占め、市場を主導しているとされています。

この成長の背景には、単純なIT投資増だけでなく、次のような「構造的な追い風」があります。

  • 他ツールとの統合需要の増大(SaaS同士、あるいは基幹システムとの接続が前提の世界へ)
  • パブリック/ハイブリッドクラウド採用の拡大(インフラの柔軟性がアプリ利用を後押し)
  • 集中化されたデータ駆動型分析の重要性(部署ごとの部分最適から全社最適へ)

さらに、SaaS利用は既に相当広がっており、2023年に73%の組織がSaaSアプリケーションを使用していた、という記述もあります。導入率が高いにもかかわらず市場が伸び続けるのは、(1)利用範囲がバックオフィスからフロント、開発・セキュリティまで広がること、(2)1社あたりの利用SaaS数が増えること、(3)上位プランや追加機能の採用が進むこと、などが重なり“深掘り型”の成長が起きるためです。

  1. 成長を押し上げた要因:リモートワークと業務継続の現実

SaaS市場の成長は、働き方の変化とも強く結びついています。感染症拡大期には、外出制限などを背景にリモートワークが一気に広がり、企業は短期間で「場所に依存しない業務環境」を整える必要に迫られました。その結果、コラボレーション、コミュニケーション、文書管理、セキュリティ、ワークフローといった領域でSaaSの採用が加速し、例として Microsoft Office 365 の利用増加が市場成長を後押しした、と説明されています。

この局面で重要だったのは、「便利だから入れる」ではなく「事業を止めないために必要」という切迫した優先順位です。SaaSは、短期間で導入でき、利用者を急増させてもスケールしやすく、更新や運用負担を提供側に寄せられるため、危機対応と相性が良いのです。その経験が企業に蓄積され、感染症拡大後も“戻らない”IT構造として定着しつつあります。

  1. セグメンテーションで見るSaaS市場:導入形態・用途・企業規模・業界

SaaS市場は「一枚岩」ではなく、導入形態、用途(アプリケーション)、企業規模、業界によってニーズと勝ち筋が異なります。提示されている整理軸に沿って、ポイントを分解します。

4.1 導入形態別:パブリック/プライベート/ハイブリッド

  • パブリック:導入の速さとコスト効率が魅力。標準機能を広く使う業務に向きます。
  • プライベート:規制やデータ主権、厳格なガバナンス要件が強い組織で検討されやすい領域。
  • ハイブリッド:既存システムや特定データを手元に残しつつ、必要な機能はSaaSで取り込む現実解。

実務では、いきなり全面移行よりも「段階的にハイブリッドで移す」ケースが多く、ここに統合・連携の需要が強く発生します。

4.2 アプリケーション別:CRM/ERP/コラボ/BIなど

市場の代表的領域として、CRM、ERP、コンテンツ、コラボレーション&コミュニケーション、BI&アナリティクス、人的資本管理などが挙げられています。ここでの本質は、SaaSが“業務の骨格”に食い込んできた点です。かつてクラウドは周辺業務から入りやすいと言われましたが、今は顧客接点(CRM)から基幹(ERP)、意思決定(BI)まで横断的に浸透し、企業の運営そのものを作り替える段階に来ています。

4.3 企業規模別:大企業と中小企業

  • 大企業:ガバナンス、既存システム連携、監査対応、権限設計などが要点。大規模運用の設計力が差になります。
  • 中小企業:導入スピードと費用対効果が重要。少人数でも運用できるシンプルさが価値になります。

SaaSは中小企業にとって「専任ITが少なくても高度な仕組みを使える」手段であり、一方で大企業にとっては「組織の複雑性を吸収する共通基盤」としての役割が増しています。

4.4 業界別:BFSI、IT&通信、教育、小売、医療、製造など

業界別には、BFSI(金融)、IT&通信、教育、小売・消費財、医療、製造などが挙げられています。業界ごとに異なるのは、主に以下です。

  • 規制・監査の厳しさ(例:金融)
  • 個人情報・機微情報の扱い(例:医療、教育)
  • サプライチェーンや現場運用との接続(例:製造)
  • 顧客接点のデータ量と速度(例:小売)

この違いが、導入形態(パブリック/ハイブリッド)や機能要件(ログ、権限、暗号化、統合APIなど)に直結します。

  1. 生成AIがSaaSを変える:自動化・パーソナライズ・効率の上昇

近年の大きな変化として、生成AIがSaaSの価値を押し上げている点が明確に述べられています。生成AIによって期待される効果は主に3つです。

  1. 自動化
    定型作業やコンテンツ生成、サポート対応、コード補助などを自動化し、人の手作業を減らします。マーケティングや顧客エンゲージメント領域での自動コンテンツ生成(例:Jasper、Writesonic)、開発支援(例:GitHub Copilot、Tabnine)などが具体例として挙げられています。また、AIがコーディングタスクの最大30%を自動化し得る、という趣旨の記述もあり、開発生産性の向上がSaaSの機能進化速度にも影響していくことが示唆されます。
  2. パーソナライズ
    ユーザーの状況や嗜好に合わせて、ダッシュボード、推奨、コミュニケーションを最適化できます。顧客がパーソナライズを期待するというデータに触れつつ、SaaSは“同じ画面を全員に配る道具”から、“個々のユーザーに合わせて振る舞いを変える道具”へ進化しやすい構造を持ちます。
  3. 運用効率の向上
    AIの組み込みが進むと、SaaSは「ツール」ではなく「半自律的に仕事を進める仕組み」に近づきます。結果として、運用コストの削減、意思決定の高速化、顧客体験の向上が同時に狙えるようになります。

重要なのは、生成AIがSaaSに“後付け機能”として載るだけでなく、SaaSそのものの設計思想(UI、ワークフロー、データモデル、権限、監査、品質保証)を作り替える力を持つ点です。これが次のSaaS競争(AIネイティブ化)を生み、市場拡大の新しい波になります。

  1. 日本市場の見え方:DX、効率化、競争力強化の「戦略ツール」へ

日本に関しては、業務効率化、コスト最適化、DX加速を背景に、幅広い業界でSaaS導入が進んでいるとされています。評価される特徴として、クラウドネイティブなアーキテクチャ、迅速なアップデート、柔軟なスケーラビリティが挙げられ、バックオフィスから顧客接点まで活用が拡大している、という整理です。

ここでのポイントは、日本企業にとってSaaSが「コスト削減の道具」だけではなく、競争力強化、データ活用の高度化、組織の俊敏性向上を支える戦略的ソリューションとして不可欠になっている、という位置づけです。人手不足や業務の属人化が課題となりやすい環境では、標準化されたSaaSを軸に業務プロセスを再設計し、データを一貫して扱うことが、成果につながりやすくなります。

  1. これからのSaaS市場:勝ち筋は「統合」と「業務成果」

SaaSの普及が進むほど、企業内には多種多様なSaaSが増えます。すると次に問題になるのが、アカウント管理、データ分断、権限設計、コスト最適化、そして“何が成果に効いているか”の可視化です。したがって今後の市場で重要性が高まるのは、次の2つです。

  • 統合(Integration:SaaS同士、あるいは既存システムとつなぎ、データと業務を横断させる力
  • 業務成果(Outcome:機能の多さではなく、「KPIが改善したか」「現場の手戻りが減ったか」「顧客体験が上がったか」を中心に価値が測られる流れ

この結果、SaaSベンダー側は、単体機能の強化だけでなく、他サービスとの連携、AIの組み込み、運用・管理のしやすさ、セキュリティとガバナンスの説明責任といった“企業利用の現実”に寄り添うほど強くなります。ユーザー企業側も、導入数を増やすだけでなく、データ基盤・運用設計・活用人材まで含めて「使い切る」ことが競争力になります。

まとめ

SaaS市場は、DXの進展、クラウドの高度化、リモートワークの定着、データ分析の重要性、そして生成AIの波を背景に、2034年に向けて大きく拡大していく見通しです。市場はCRMやERP、BI、人事など企業活動の中核領域へ深く入り込み、導入形態(パブリック/プライベート/ハイブリッド)や業界特性に応じて多様な成長機会が広がっています。今後は「導入するかどうか」ではなく、「統合し、成果に変えるかどうか」が、SaaS活用の主戦場になっていくでしょう。

出典(ソース): https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9-(saas)-%E5%B8%82%E5%A0%B4-102222

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